全ての情報を共有することは原則不可能
みんなが同じ情報を知り、同じ知識を持っていれば、同じ判断ができる。そんな幻想に囚われ、自社組織やチームに、自身と同じレベルを求めては落胆している経営者や管理職は少なくないのではと思います。
しかし、本当に全ての人が同じ情報を知り、同じ知識を持っている必要があるのでしょうか?そんな均質でAIのような組織が必要なのでしょうか?この疑問に答えをくれるのが、『トランザクティブメモリー』という組織の記憶システムです。
トランザクティブメモリー(Transactive Memory)とは、個人ではなく、チームや組織全体で記憶を分担・共有する仕組みを指します。もともとは心理学者のダニエル・ウェグナー(Daniel Wegner)によって提唱された概念で、簡単に言えば、「誰がどの情報を持っているかを把握し、それを活用する」ことで、組織全体の情報・知識を大幅に広げていくという考え方を指します。
「あれ、あのデータどこにあったっけ?」
「○○の件なら△△さんが知ってるから聞いてみて!」
こんなやりとりはよくありますよね。これがまさにトランザクティブメモリーの活用されている現場のようすです。情報をすべて自分で覚えるのではなく、誰が何を知っているかを把握し、必要なときに引き出す(尋ねる)ことができるような仕組みを作っておくことで、より組織やチームの力を強くすることができるのです。
なぜトランザクティブメモリーが重要なのか?
① チームの生産性が向上する
個人の記憶容量や、記憶に使える時間は有限です。だからこそ、本来すべての情報を個人で記憶するのは非効率と言えます。しかし「誰が詳しいか」さえ知っていれば、情報共有がスムーズになり、必要な知識に行き当たるまでの負担が減るため、結果的に意思決定のスピードを上げることができるのです。
② 専門性を活かせる
組織やチームの各メンバーが自分の得意分野を持ち、チーム全体で知識を分担することで、個々の専門性が活きるようになります。また、それぞれの知識を組み合わせることで、自身がチームに貢献できているという自己肯定感に繋がる副次的な効果も見込めますよ。
③ 記憶の負担が減る
記憶することに使用する時間や、記憶に必要なキャパシティが減ることで、メンバー個人が自身の本来業務に集中できるようになります。
トランザクティブメモリーを活用するには?
①役割を明確にする
組織やチーム内で『誰が何を担当しているのか』『何を知っているのか』を明確にしておくことがシステムの鍵です。経営者や管理職がメンバーの専門性を共有する働きかけを行うことが重要です。
② コミュニケーションを増やす
働きかけと言っても、そのためにMTGを増やしてしまったのでは意味がありません。『誰が何を知っているか』を普段の会話や、 定期的なミーティングなどの既存の場を使って、組織内で共有しておくことが大切になります。
③ 情報を整理・共有する
上記のような働きかけの中でも、全部の情報や知識をだれかが整理するとなると、トランザクティブメモリーが機能していないことになります。それぞれの情報や知識を持ち寄り、可視化するための社内データベースや共有フォルダ・ドキュメントなどに、誰が何を知っているかについての情報をまとめておくことも有効です。
まとめ:トランザクティブメモリーで、チームの力を最大化しよう!
トランザクティブメモリーは組織の記憶装置です。『誰が何を知っているか』を把握し、情報や知識を分担して記憶しておくことで、共有できる記憶容量を最大化し、チームの生産性向上や専門性の活用、記憶の負担軽減に役立ちます。トランザクティブメモリーは、経営者や管理職のみなさんが、組織内の個人の役割を明確にしておき、コミュニケーションを活発に行える環境を整えておくことで効果的に活用できます。
個人で全てを覚える、すべてを一人に任せるのでは、その人がいなくなった時の組織の能力はただ落ちてしまうだけです。転職が普通のこととなった今こそ、チームとして組織の力を培っていく仕組みづくりが重要です。『知識のネットワークづくり』をあなたも実践してみませんか?
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