前回の分類方法で、住宅業界を下記のように分類した。
「技術系」:独自の工法・素材・耐震技術を開発する住宅会社、デザイン能力の高さで勝負する設計事務所などが挙げられる。この場合、広告や販促ツールにおいても自社の技術面での優位性をアピールすることになる。
「効率系」:ローコスト住宅や建売住宅が該当する。効率系は低価格であることが求められるため、徹底した効率経営の考えが必要である。
「密着系」:古き良き地元工務店と住宅事業をサービス業と捉える企業が該当する。
今回は、「技術系」「効率系」「密着系」が、建物、人材・投資について採るべき戦略を解説する。自社が何系かを意識しながら読み進めてもらいたい。
▼技術系の建物
「技術系」では、高品質・高価格な建物を商品として展開することになる。「機能・性能・デザイン」のうち、どれを究めるかで、会社の雰囲気は異なるように思えるが、自社の技術・開発力の向上により他社との差別化を図るという観点から、社内の雰囲気は比較的似ているものだ。
何かを究めている「技術系」として存在を認められると、業界内でも一目置かれる立場となり、一般にもブランドとして認知される。
ただし、断熱や気密に関する技術が企業間で大差ない(と思われている)現状では、余程卓越した技術・開発力を持たなければ、「機能・性能」を前面に打ち出した「技術系」での差別化は難しい。これから「技術系」を差別化の軸とするならば、一般にも「分かりやすい」技術を目指すか、「デザイン」を究めることが生き残りの鍵であろう。
因みに「技術系」が、なぜ高価格なのかといえば、理由は3つ。1つには他社にない独自の技術・デザインであるから高価格でも購入する顧客がいるから。2つには、技術研究に費やした開発費を回収する必要があるから。3つ目は、高い技術を持つ社員の人件費、高価な素材のコストが嵩むからである。ゆえに「技術系」の企業体質にも関わらず、低価格の商品展開をすると赤字になる。残念ながら、技術系の真面目な社長ほど採算割れに苦しんでいる。
▼効率系の建物
「効率系」の建物、商品戦略は「技術系」とは全く異なる。定番のデザインで建物を規格化し、低価格で勝負するスタイルだ。いかに効率的に見込客を集め、短期間で契約し、短工期で終わらせるかが経営のポイントである。当然ながら、新たな技術を自社で開発したり、お洒落だが万人受けはしないデザインの家を建てたりすることはない、というよりもしてはならない。研究開発に掛けた費用を回収できるだけの高価格で販売できる見込みはなく、また、コストダウンのために一定の棟数を必要とするのだから万人受けしないデザインでも困るのである。
お気付きの通り「効率系」は突き詰めると建売住宅になる。大規模な土地を安く仕入れて整形し、規格化した住宅を同時期に建てるのが最も効率が良い。効率系の大手建売住宅グループは、高い営業利益率を誇る。
なお、「効率系」のローコスト住宅を志向しながら「顧客のために」と、施主の要望を細かく聴いて効率を落として苦しい経営に陥っている企業も少なくない。間取り変更を受け付けたり、コンセントの位置を変更したり、施主支給の建材を認めたりしていては、効率は下がる一方だ。施主の要望を細かく聴いてあげたいならば、「効率系」を差別化の軸にするのを止めるべきだ。耳掃除をする効率系の床屋の例と同様に、本質的には顧客のためにはなっていないのだから。
▼密着系の建物
「密着系」の建物は、個別に対応する社員力こそが命綱であり、建物自体の特性は「技術系」と「効率系」ほどの差はない。集客段階では、OB紹介や工務店のゆるいイベントでつながり、商談段階では濃密な人間関係をベースとして聴きだしたプライベートな情報を基に、それを知らない他社には真似出来ないプランを提案。現場では、大工が施主の要望を聴きながら細かな変更を行い、ちょっとした棚をサービスするなどといった個別対応が出来る建物である。「密着系」では、強い人間関係が基礎となり、その上に建物があるというイメージだ。
なお、現場での細かな変更やサービスなどは、「個客」として対応できている場合に限る。施主の性格を個別に把握できていないと、場合によっては、よかれと思ったサービスが思わぬクレームを生むこともある。付け焼刃の「密着系」は止めておいた方が無難であることを申し添えておく。
▼人材・投資
人材面から見ると、「技術系」企業の社員教育は、技術力や研究意欲を高めるために行われる。異業種の技術勉強会は勿論、デザインを重視した企業であれば、海外のデザイン視察も必要である。「効率系」では、人件費の安い新人でも受注できるマニュアルが必須であろうし、如何に受注・工事のスピードを高めるかが課題になる。「密着系」の企業では、社内の楽しい雰囲気や社員満足度、サービスレベルの向上が人材育成のテーマとなる。
というように、人材に対する考え方も「系」によって違う。「効率系」では受注できていた営業マンが、他の「系」では受注できないという話はよくあることだ。
投資に対する姿勢も「系」によって違う。「技術系」は、技術開発や画期的な部材には投資を惜しまないだろうが、「効率系」にとっては開発費用などは無駄である。それよりも低価格の汎用品や土地取得に投資する。他方、「密着系」の投資先は、場所と人だ。地域住民との接点が増やせる場所、社員やOBとの関係維持への投資がポイントである。
こうした人材や投資に対する姿勢を自社の「系」から意識することで、無駄な人材、投資は減らすことが出来る。他社で成功している手法だからといって無批判に導入せず、一度立ち止まって、「系」の違う自分の会社では成功しないかも?と思うだけで、無駄なノウハウ購入は避けられるだろう。
▼戦略の一貫性
戦略の系統について解説してきたが、いずれの「系」を目指すにしろ、戦略には一貫性が必要であることを理解して欲しい。流行の広告手法やフランチャイズなど自社が何系なのかも分からず、目に付く「良いもの」に飛びつくと、一貫性のない企業になり、お客様からは何がウリなのか見えにくくなる。社員から「社長がまた何か始めたみたいだ。いつも続かないんだよなぁ」と思われている企業は要注意である。
上述したような、人材(ヒト)、建物(モノ)、投資(カネ)に対する姿勢を自社の「系」に統一すると、社内の全てのことが、一貫した美しい戦略となる。ぜひ、他社の借り物でなく、あなたの会社の系統にあった戦略、ノウハウを自ら生み出す気概を持って欲しい。
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。