事業と屏風は広げすぎると倒れる。攻めるか守るか、工務店経営。

攻める経営


◆事業と屏風

昔から「事業と屏風は広げすぎると倒れる」と言われる。
事業を拡大することにより、資金需要は増える。
企業規模に合った十分な資金調達が出来なければ、環境の変化に対応できない。

飛ぶ鳥を落とす勢いだった企業が、急速に業績を悪化させた例も枚挙にいとまがない。
特に一度の取引金額が大きい住宅業界や不動産業界ではよくある話。

毎年、東京ビッグサイトで住宅業界向けイベントが開催されるが、
数年前に「成功企業」として持てはやされていた工務店が、現在でも同じ勢いを保っていることは稀である。

年間5~10棟であれば、急激な受注減があっても経営者の個人資産や役員報酬の減額で凌ぐことで
倒産は回避できる。しかし、年間50~100棟以上になると、小手先の資金調達では間に合わない。

自己資本を積み増しながら徐々に成長した企業は急激な環境変化にも耐えられるが、
急速な成長を借入で賄ってきた企業には耐えられない。
企業を大きくすることによるリスクは、急成長の只中にいると感じないものだ。

順調に成長している時に、もう一段上を目指す投資をすべきか。
それとも、今後の受注減に備えて投資を抑制するか。

 

◆成功の基準
2012年10月。国内携帯電話4位のイー・アクセスに続き、米携帯電話3位のスプリントの買収を
発表したソフトバンクの孫正義社長。スプリントの買収を発表する数日前、ツイッターで、つぶやいた。

「少し守りに入りかけている己を恥じ入る。もっと捨ててかからねば。」
「目標が低すぎないか?平凡な人生に満足していないか?」

小さな成功で守りに入りかけている経営者にとっては、思わず背筋が伸びる言葉ではないか。
未だスプリント買収が成功したとは言えない状況ではあるが、飽くなき挑戦者のスタイルは
多くの経営者に刺激を与える。

世間では「日本はもう成長しなくて良い」という論調が目立つようになった。
時折、その論調に経営者でも同意する人がいることに驚く。
企業が成長しなければ、その商品を必要とする社会も、そこで働く社員の給与も良くなることはない。
経営者は常に成長を希求しなければならないのである。

自分自身に孫社長のつぶやきを問いかけてみて欲しい―「平凡な人生に満足していないか?」

 

◆経費削減病
不況下においては、社内で財務・経理部門の力が強くなる。日本経済新聞では「CFO経営」と表現した。

飽くなき成長への欲望は、裏目に出れば会社を存亡の危機に追い込むかもしれない。だが、リスクを避ける「正気」が会社をむしばむこともある。
4期連続の赤字に苦しむソニーの幹部は、その原因を一言でこう言い表した。「CFO(最高財務責任者)経営」
CFOが悪いという意味ではない。バブル経済の崩壊後は、どの会社でもリスクを管理するCFOの権限が強くなった。「投資はキャッシュフローの範囲内で」「手元資金は厚く」。リスクを避ける経営を続けた結果、多くの企業が成長の芽を摘んでしまい、縮小均衡のアリ地獄にはまり込んだ。
(引用元:2012/10/22日経新聞)

中小企業ではCFOではなく、弱気になった経営者と経理担当者をイメージした方が分かりやすい。
弱気になった経営者は「経費削減病」に罹りやすい。

業績が悪化した時に、売上を伸ばす方策を考えるのではなく、経費削減に取り掛かる。
ほとんどの住宅会社で、大幅に経費を削減できる余地は残っていない。
今どき、際限なく交際費を使っている企業もないだろう。
無駄な経費がほとんどないため、自ずと削減対象は販促費や将来の投資に及ぶ。
売上を稼ぎ出す筈の広告も、前向きな投資も止め、目先の経費を減らすことに躍起になる―。

経費削減病のやっかいなところは、病に罹った1年目は利益が出やすいために、
自分が経費削減病に罹ったことに気付かないことにある。

当期の売上は、前期までに投資していた広告や人材等によってもたらされているため、
当期の経費(重要な投資も含む)を削減しても売上への影響は少なく、削減した分だけ利益が出やすいのである。

大変なのは、投資を削減した影響が出る翌期である。
1年目で経費削減は利益が出ると思い込んでしまった経営者は、2年目も同じ経費削減を続ける。
しかし、今度は前年に投資をしていないために売上は上がらない。
すると更に経費削減を続け、ますます事業規模は縮小していくことになる。

 

◆リスクとリターン
将来の住宅市場を考えると、事業環境は楽観視できるものではない。
しかし、リスクを取らない者にリターンはない。

楽な環境ではないからこそ、経営者は意識的にリスクを取り、成長の果実を得るために行動すべきである。
事業環境は変化している。
何も行動しないことは、「やらないリスク」を無意識のうちに取っていることに気付かねばならない。

確かに「事業と屏風は広げすぎると倒れる」が、逆に「閉じすぎると役に立たない」のであるから。

 

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ALEX

住宅会社・工務店の経営コンサルタント。経営・人事・財務など、中小企業の経営面でのアドバイスを行う。

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