住宅以外の事業を展開したくなった時に、考えてもらいたいこと。

工務店の新規事業

中長期的に住宅業界の市場規模は縮小していくことは、ほぼ確実である。
成長を続けるために、住宅以外のビジネスを新たな収益源に育てようと取組む住宅会社も増えている。

◆成長の方向性
新たな事業を考える場合、経営戦略の基本としては、市場と商品によるマトリクスが分かりやすい。
図にあるように、「市場」と「商品」の軸をとり、それぞれ「既存」と「新規」に分ける。
すると、下記の4つの象限ごとに戦略が出来る。

アンゾフマトリクス

 

<市場浸透戦略>
現在の市場でいかにシェアを上げていくかという戦略で、既存顧客への販売量増加と
潜在顧客の掘り起こしが中心となる。

これは、住宅で言うと地域ナンバーワン戦略にも近い。
ハウスメーカーと肩を並べる価格帯から、ローコストの規格型住宅まで、
また20~30代の一次取得者層から、50~60代の建て替え層までをカバーする商品構成など
その商圏内で家を建てる客層をカバーする戦略である。

なお、地域ナンバーワンを狙える企業だけではなく、新たな事業を起こす余裕も
新たな地域に進出する資金力もない場合には、まずは徹底して市場浸透を図ることが重要である。


<新市場開拓戦略>
現在の商品をそのまま、あるいは改良して新しい市場に振り向けていこうとする戦略。
既存商品を開拓市場に広げる。

住宅で言うと、既存の住宅ブランドで新たな街に支店を展開する戦略である。
多くの市町村で住宅着工戸数が減少してはいるものの、一部には人口構成が若く、
着工戸数が伸びている市町村もある。
そこに既存の商圏で培った住宅ブランドで支店展開を図る…が、なかなか簡単ではない。
資金力と商品力が成功の鍵である。

初めて支店を展開する場合は、社長の想像以上に資金が必要になることを頭に入れておいた方が良い。
受注がなくても最低限の人員を置くための人件費、支店経費、モデルハウス、移動交通費…。
さらに知名度がない地域では、ある程度集中的に広告を投下しないと支店として立ち上がらない。
当たり前だが、同じ年100棟を建てるのでも1拠点100棟の方が、10拠点各10棟よりも資金は少なくて済む。

また、商品力があることが支店展開では重要である。
現在の商圏で売れている理由が、人間力や紹介にある住宅会社は新たな地域で苦戦する。

大手ローコストメーカーのように圧倒的な資金力を背景にした広告展開と分かりやすい商品力があれば
市場開拓戦略は成功するが、資金力と商品力が乏しければ、市場開拓で大きな成功を収めることは難しい。


<新商品開発戦略>
現在の市場シェア拡大のために新商品の開発・導入を行う戦略である。
既存のチャネルと顧客を利用することで販売コストの低減を図る。

住宅業界で言うと、OB客を入口としたリフォームやリノベーション、中古住宅などへの展開である。
なお、賃貸マンションやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)なども、
同じ建築分野ではあるものの、そのターゲットとなる客層は、自分で住む施主と、
他人に住まわせる地主では大きな差異があるため、新商品を新市場に投入する多角化戦略に近い。

住宅市場の縮小に合わせ、様々な企業がCRM(顧客関係管理)の重要性に気付き、
OB客との中長期の関係性構築を意識したビジネスを展開している。

ある調査では、引き渡しから10年経過時に、
建築した住宅会社にリフォームを頼める関係にある施主は僅か15%未満という。
非常に勿体無いことをしている住宅会社が多い。

全く取引のない見込客よりも、一度家を建てたOB客からの方が、
リフォームや建替えを受注しやすくて当然なのであるから、
積極的にOB客との関係を構築すべきである・・・クレーム産業などと言い訳をせずに。


<多角化戦略>
新しい商品を新しい市場に投入する戦略。既存事業とは関連性の低い(ない)事業に進出するもの。
前述のサ高住のような建築関連や福祉、飲食店など、様々な分野がある。

住宅会社が多角化に成功すると、縮小する住宅市場以外での収益源を得られ、リスク分散の効果もある。
しかし、多角化戦略は新たな市場に新たな商品を投入するため、成功確率は低い。


上記のように4つに分けて考えた場合、取り組む新規事業はリスクが少なく、
成功確率の高い事業を手がけるのが資金が潤沢ではない中小企業がとるべき戦略である。
住宅会社であれば、新商品開発戦略によりOB客中心のリフォーム事業を強化するのが妥当である。

とはいえ、リフォームなど取組みやすい事業は、多くの住宅会社が既に実施済みであろう。
そこで、仮に2年間は既存の住宅事業で一定の受注が見込めるのであれば、多角化戦略を実行してみても良い。

1つの事業が成長軌道に乗るまでは、少なくとも1~3年くらいはかかる。
何か新事業のアイディアがあるならば、土台がしっかりしている時期に取組むことをオススメする。

社長業の良いところは、「酔っぱらいの戯言」で終わりそうな突飛なビジネスのアイディアも、
比較的簡単に立ち上げることが出来るところにある。
1ヶ月もあれば、会社設立し、WEBサイトを開設して名刺を持って事業をスタートさせることが出来る。

そのビジネスに可能性があるかないかは、頭の中で考えていても答えは出ない。
まずは、一歩を踏み出してみてはどうだろうか。

この記事の著者

アバター

ALEX

住宅会社・工務店の経営コンサルタント。経営・人事・財務など、中小企業の経営面でのアドバイスを行う。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る